未来の命を守る最終防衛線

【第3回】アスベスト労働災害発生時の企業の責任と対応
前回までは、アスベストによる健康被害の現実と、それを未然に防ぐための事業者の法的義務について解説しました。しかし、どれほど厳重な対策を講じても、万が一のリスクはゼロにはなりません。
最終回となる今回は、事業者として、アスベストによる労働災害が「発生してしまった場合」の企業の責任と、取るべき具体的な対応について詳しく解説します。これは、従業員の命と健康を守る「最後の防衛線」であり、企業の信頼を守る上でも不可欠な知識です。
■ 発生時の企業の責任とリスク
アスベストによる健康被害は、その潜伏期間の長さから、発症が何十年も先になることが特徴です。そのため、当時の作業環境が不明確であったり、企業体制が変わっていたりするケースも少なくありません。
しかし、業務との関連性が認められれば、企業は以下の責任を問われる可能性があります。
・安全配慮義務違反: 労働契約法に基づき、作業員の安全を守る義務を怠ったと判断されるケースです。
・損害賠償責任: 健康被害を受けた作業員やその遺族から、慰謝料や逸失利益などの損害賠償を請求される可能性があります。
・企業の信用失墜: 労働災害の発生は、企業の社会的信用を大きく損ない、株価や事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを最小限に抑えるためにも、万全な「予防策」と、有事の際の「適切な対応」が両輪で不可欠です。
■ 健康被害が疑われた際の具体的な対応フロー
もし、自社の現役または元従業員から、アスベスト関連疾患の発症や疑いの連絡があった場合、事業者として迅速かつ誠実に対応することが求められます。
・情報収集と事実確認:
いつ、どこで、どのような作業に従事していたか。
どのような症状が出ているか。
健康診断の記録や、当時の作業記録(作業日報、指示書など)を速やかに収集します。
・専門機関への連携支援:
従業員に対し、専門医の受診を勧め、情報提供や医療機関との連携をサポートします。
労災保険制度の利用についても、情報提供や申請サポートを積極的に行いましょう。
・労働基準監督署への相談:
労災申請に関する手続きや、会社の取るべき対応について、所轄の労働基準監督署に相談します。
当時の作業環境やアスベストばく露状況に関する情報提供は、企業の義務であり、労災認定の判断に不可欠です。
・再発防止策の徹底:
健康被害が判明した場合、同様の事故を二度と起こさないための原因究明と再発防止策を徹底します。
作業環境の見直し、教育体制の強化、保護具の点検など、具体的な改善策を速やかに実施しましょう。
■ 企業の信頼を守る「記録管理」の重要性
アスベスト関連の労災対応において、特に重要となるのが「記録の確実な管理」です。潜伏期間が長いため、数十年前の記録が突如必要となることがあります。
・作業記録: いつ、どこで、誰が、どのようなアスベスト関連作業に従事したかの記録。
・健康診断記録: 石綿健康診断の結果記録は40年間保存義務があります。
・保護具の支給・使用記録:
適切な保護具を支給し、正しく使用されていたことの記録。
特別教育の実施記録: 従業員が特別教育を受けたことの証明。
・事前調査結果: 建物内のアスベストの有無や種類、レベルに関する詳細な調査結果。
これらの記録は、いざという時に企業の責任を明確にし、従業員の正当な補償を支援するための重要なエビデンスとなります。デジタル化や複数箇所でのバックアップなど、長期保存のための工夫も検討しましょう。
【シリーズ全体のまとめ】
3回にわたり、アスベストによる労働災害のリスクとその対策について、事業者の目線で解説してきました。
アスベスト問題は、過去のものではなく、現在そして未来の従業員の命と健康に関わる、企業の重大なリスク管理課題です。
予防の徹底: 法的義務を遵守し、発生させないための最善を尽くす。
記録の管理: 万が一に備え、長期にわたる確実な記録管理を行う。
有事の誠実な対応: 発生時には、従業員に寄り添い、迅速かつ誠実に対応する。
これらの取り組みを通じて、事業者として従業員の命と健康を守り、社会からの信頼を築き、持続可能な企業経営を実現していきましょう。
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